7.菌根菌(その3)‐巨大な生物

/世界一巨大な生物は何か。カルフォルニアのレッドウッドのセコイアを直ぐに思い浮かべるかも知れない。確かにセコイアは世界一高い樹木で115mに達するものもあると言うが、世界一巨大ではない。

一番大な生物はキノコである。キノコは糸状菌(カビ類)の一種であり、その子実体がキノコである。キノコは植物の細根部と共生(または寄生)して菌根を作る。その生活様式によって腐生性と共生性の2つのタイプに大別される。前者は枯木や枯葉を腐食分解する腐生菌で、サルノコシカケ、ナラタケ、シイタケ、エノキダケ、ブナシメジ、マッシュルームなどがこれに当たる(写真1)。これらは人口栽培されサルノコシカケ以外はスーパーでも馴染みのキノコである。一方、後者のタイプ(マツタケやホンシメジなど)は生きた樹木と強い共生関係にあるため、人工栽培は今日でも難しい。ホンシメジはまだ一般には出回ってはいないが、最近、遺伝子組み換えによって人口栽培が可能になったと聞く。

前のグリーン部会便りNo.14で述べたように、これらのキノコは菌糸を伸ばして樹木の根毛と菌根を形成し、樹木から光合成産物をもらう一方で、ミネラル養分を地中から吸収し樹木に供給している。痩せた土地でも植物が育つのは、広く菌糸を伸ばした菌根菌のお蔭とも言われている。森林では様々な菌根菌が菌糸を張り巡らし、全体が菌糸によるネットワークで結ばれている。暗い森の中でも実生の稚苗が成長できるのも、菌根菌から栄養や養分をもらっているからだと言われている。森林は全体が菌根菌に支えられている一つの生態系であると言える。

/写真1 倒木に真っ先に生えると腐生性キノコ、カワラタケとナラタケ。ナラタケはナラ枯病を引き起こすことがある。  撮影:2023.3.29  と 2021.11.3

/図解1 樹木と共生性キノコとの共生

/一つの実話がある。ある人が新大陸オーストリアの大地に母国のある樹木の実を植えたが、芽は出るもののまったく育たなかった。後年に鉢で育てた苗を土ごと移植したところよく育ったという。この事実は、この樹木の成長には土壌に含まれている菌根菌が必須であることを示す実例であった。

腐生性キノコも森林の生態系において必須な役割を果している。倒木や落葉が腐食して土に帰るのも腐朽菌のお蔭である。遠い昔、3億年ほど前の石炭紀には大陸は樹木で覆われていた。当時、木化成分であるリグニンを分解する微生物が存在しなかったため、倒れた木や落ち葉は腐ることなく膨大な層となって堆積していった。この堆積層が土に埋もれ、高圧と地熱などにより炭化したものが石炭なのである。石炭紀が終わりを迎えたのはリグニンを消化する白色腐朽菌(腐生性キノコ)が出現し、倒木の腐食が進んだためである。今日におけるような森林の成長と再生、「芽生え、成長、枯死、腐食、分解、そして芽生え」の循環系が完成した。

さて、最初の問に戻ろう「世界一巨大な生物は何か」。もうご納得であろう。それはキノコである。ある学術調査によれば、ナラタケの仲間(オニナラタケ)の単一コロニー(個体)が15万m2(15ヘクタール)にまで伸び広がり、その年齢は約2000年と推測された。これが単一コロニーであることは、一つの森の遠く離れた場所で採取した菌糸のDNA鑑定によって証明されたのだ。すなわち、採取した菌糸のDNAの塩基配列が完全に一致したからだ。


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