6.菌従属栄養植物―菌根菌(その2)

/菌根菌は、植物の根に寄生(菌根を形成)し、植物から光合成産物を得る一方で、植物にはリン酸や窒素などの養分を供給することは既に述べた,両者は、言わば相利的な共生関係にある。地球上の約80%の植物が菌根菌に関与していると言われている。菌根には形態的特徴から、外生菌根、アーバスキュラー菌根、内生菌根など7つのタイプがある。アーバスキュラー菌根菌は陸上植物の8割が共生していると言われ、もっとも普遍的に存在する。土壌の改善、病気予防等に役立つ資材として一般にも市販されている。実際、野菜や花木植物の栽培に有効なようである。一方、外生菌根は、キノコ類に代表されるように森林生態系において特に重要な役割を果たしている。前者では菌糸が根の細胞内部に侵入するが、後者の菌糸は根の細胞内には侵入せず、根を覆うように菌鞘を形成する。

/写真1ギンリョウソウとその根 撮影:2023.4.18

/前にも述べたが、無葉緑植物(ツチアケビ、マヤラン、ムヨウラン(以上ラン科)、ギンリョウソウ(ツツジ科)など)は、それぞれ特定の腐生菌や菌根菌に寄生してすべての栄養を菌から得ている。ツチアケビは腐生菌であるナラタケに、後の3者はベニタケ類の菌根菌に寄生して生きている。このような植物は完全菌従属栄養植物と呼ばれている。マヤランやムヨウランは絶滅危惧種に指定されておりめったに見かけないが、ギンリョウソウが山道のじめじめした木陰にひっそりと佇む姿は白く半透明で、森の木の妖精のようである(写真1左)。その根には根毛がなく、菌根菌に覆われてもこもこした塊状になっている(写真1右)。

/立派な葉を持ちながら菌根菌から養分をもらわないと生きていけないラン植物もある。お馴染みのネジバナ(写真2左)もそうである。一般にラン科の植物の種は小さく0.2mm~1mmで、芽生えに必要な栄養をもっていない。ネジバナが芽を出して成長するには、特定のイネ科の植物(例えば高麗芝)と共生している菌根菌と菌根を形成しなければならない。ネジバナの若い苗の根を掘り起こして見ると、写真2(中)のように、根毛がなくずんぐりした太い根が観測される。菌根菌にびっしり覆われている?ためであろうか。菌根を作らないアブラナ科のムラサキナの根毛(写真2右)と比較すれば、その違いは明らかであろう。(アブラナ科の植物が何故菌根を形成しないかは知らない。)ネジバナは緑の葉を持ち光合成しているが、少なくとも発芽と実生の初期段階において菌根菌なしには成長できない。それゆえ、ネジバナは部分的菌従属栄養植物と言える。

/写真2 ネジバナ(左)とその根〈中〉ムラサキナの根毛(右)撮影:2022. 6.2(左)2023.4.14 (中&右)

同じことは、明るい森を好み4月末から5月初めに鮮やかな黄色の花を咲かせるキンラン(写真3)、同種の白色の花のギンランにも当てはまる。いずれも立派な緑の葉を持っており、光合成もできるが、十分でなく、ラン菌根菌類への依存性も高いことが明らかになった。すなわちキンラン、ギンランは部分的菌従属栄養植物なのである。これらの鉢植えが難しいことはよく知られており、これがその理由である。自生地の土と一緒に鉢に移植きたとしても2,3年すると消えてなくなる。実際に根を掘り起こして見ると、その根には根毛は見られず、菌根菌が鞘状に覆いずんぐりした形をしている(写真3右)。

/写真3  キンランの花(左)と根(右) 撮影:2023.4.21

/地球上の生命誕生が35億年前、植物が陸上に上がったのが10億年前、この時、菌根菌も一緒に上陸したと考えられている。以来、菌根菌は植物にとって掛替えのないパートナーとして共に進化してきた。また、時には病原菌として病気を引き起こす。植物生態系における菌根菌の重要性にも拘わらず、最近までその実態ほとんど分かっていなかった。その研究の難しさは、菌根菌が目に見えない地下で活動しおり、実験室での単一コロニーの培養が事実上不可能な現実がある。しかし、菌根菌の研究は近年の遺伝子技術の発展によって飛躍的に進展していて、大変興味深いものがある。菌根菌の存在を知った今、植物を見る目が変わったように思う。(「菌根の世界」斎藤雅典編、2020年、築地書館:是非参照されたい。)


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