31.雑草論

★雑草とは

 「雑草にも名前がある」とは日本の植物学の父牧野富太郎博士の名言だが、団地の植栽管理を預かるグリーン部会にとって雑草の駆除は悩みの種である。芝生の管理の良し悪しによって団地の品位が見えると言う。生垣の雑草もしかり。建物と生垣との隙間に繁茂する雑草にも手を焼いている。今回グリーン部会だよりは、雑草について考えてみたい。

雑草とは何か、それは生物学的に厳密に定義できるものではなく、人間の活動と深く関わっている。この定義は立場によって異なる。

  • 農学の立場から「作物に直接または間接的に害をもたす植物群」(荒井:1951年)
  • 植物生態学の立場から「人の活動によって攪乱された土地に発生・生育する植物」(ハーバー:1944年)
  • 一般の人の立場から「人々の身の回りに自生する草」、(いわゆる人里植物)

よく言えば、逞しく生命力あるものの象徴、悪く言えば、害になるしぶとい存在として揶揄される。

★雑草の生活能力 

 雑草は、過酷な生活環境に生きている。刈取り(捕食)、踏圧、土壌の攪乱、強い光と熱、乾燥など人間の営為あるいは自然のいろいろな脅威に晒されている。多くの雑草は、これらのストレスに対する耐性能力、さらに生態学的には種子の休眠性、茎の匍匐性、無性生殖による栄養繁殖の能力もまた、生き残るための秀でた能力である。雑草はこれらの能力の1つまたは複数の能力を備えることで生き抜いている。

*刈取り(捕食)圧

ゴルフ場のグリーンは冬でも緑を美しく保ち、ゴルフボールが滑るように走ることが求められる。そのために常緑のベントグラスが植えられ、年に300回毎日のように高さ3~5ミリまで短く刈取られている。この極限の刈取り圧に耐えられる植物はイネ科の雑草と言えども稀である。生き残れる雑草はスズメノカタビラ(写真)であると言う。これはネコの額のような小さな我が家の庭でも大変な厄介者で、根から取り除いても湧くように生えてくる。成長も早く1か月ほどで花をつけ実を落とす。

 ヨーロッパの牧草地は、写真でよく見かける光景であるが、緑一色で雑草のない牧草に驚く。多分それは、牧草が成長する度に直ぐに家畜に食べられてしまうからであろう。つまり牧場は常に捕食圧に晒されている。普通双子葉植物は葉が全部食べられるとその回復は遅く、枯れることが多い。しかし、単子葉のイネ科の植物は原基(葉や茎の基になる細胞群)が根元にあるので、根が残っている限り新しい芽が直ぐに出てくる。また、同科の植物は双子葉の植物とは異なり、葉脈が平行に走っており構造が簡単なので噛み取られても回復が早い、というのが、牧場には雑草が少ない理由の一つかと思う。

 単子葉植物は1億4千年前に原始的な双子葉植物から進化したと言われている。この時期はちょうど草食動物が繁栄した時代と一致しているので、単子葉植物の出現は草食動物による捕食圧の結果ではないか、との説もある。

 イネ科の雑草でスズメノカタビラ以外に数々あるが、芝生の強害雑草としてメヒシバ(写真1中)やオヒシバ(写真1右)がある。前者は匍匐性で茎の節から根を下ろすが、後者はひげ根を深く伸ばし株を大きくする。そのため根元から完全に取り除くのは結構な力仕事である。早い内に除去しよう。これらは芝と同じイネ科に属することから除草剤の効果は期待できない。

/写真1左スズメノカタビラの花; 写真1中メヒシバの穂; 写真1右オヒシバの株 

/踏圧に強いオオバコ(オオバコ科)(写真2左)、刈取り圧に強いタンポポは地上に張り付いた放射状の葉、ロゼット葉(写真2中)を持つ雑草である。ロゼット葉の植物は茎の成長が極端に抑制されているため、葉がバラの花びらのようにリング状に伸びている。幼年期にロゼット葉で成長するが、成熟期になると急に茎が伸びて房状の花を咲かせるキク科やアブラナ科の雑草が多くある。一方、オオバコとタンポポは一生をロゼット葉で過ごす。オオバコの葉も花柄も硬い繊維質で踏圧に強い理由であろう。この花柄を用いて草相撲に興じた子供の頃の遠い思い出が蘇る。あまり手入が良くない芝生に生えるタンポポも年々変化するが、最近では西洋タンポポに変わってウズラバタンポポ(写真2右)が急に増えてきた。これもヨーロッパからの2000年頃に移入、野生化したらしい。

/写真2左:オオバコ  写真2中:ロゼット葉(タンポポの種) 写真2右:ウズラバタンポポ

*地下茎  地下茎で繁殖する厄介な雑草と言えば、ドクダミソウとササがその筆頭であろう。地下茎は網の目のように広がる。こまめに除去することが第一。

*匍匐性と栄養繁殖(無性生殖)   

匍匐性とは地面を這うように成長する植物の性質を言う。春温かさが増すころ、広い芝生の中に小さな芽を見付けたかと思うと1ヵ月も経たないうちに地面一杯を覆う勢いで伸びるコニシキソウ(ドウダイグサ科)(写真3)。地面に張り付いて放射線状に広がる植物は背丈が低いので、刈り込みに影響されることもない。また、匍匐して伸びた茎の節々から根を出し定着(無性生殖で繁殖する)ので、芝生の雑草としては、もっとも手ごわい雑草の一つである。

もう一つの代表格は、シロツメグサ(通称、クローバー)(マメ科)でたんぱく質の豊富な牧草として明治時代に移入された。子供の頃、クローバーに四方を囲まれて花輪作りや4葉探しに夢中に楽しんだ遠い記憶が残る。シロツメグサは匍匐性に加え、節々から芽や根を出して葉を密に広げ、芝生の中でとても目立つ濃い緑の群落を作る(写真4)。住民からしばしば駆除要請を受けるが、完全な駆除は難しい。

/写真2 ニシキソウの匍匐        写真3 シロツメグサの群生

*種子休眠性

 人間によって改良された作物の種は休眠しない。そのため種を蒔くと一斉に芽を吹き成長する(斉一性と呼ぶ)。この斉一性は農作物にとっては大切な性質である。作物の収穫のために一連の農作業が繰り返されている。そこでは、雑草は常に駆除されるべき対象である.しかし,絶え間ない除草努力にもかかわらず,農耕地から雑草が一掃されることはない。それは,雑草が除草作業を回避して次世代を残すことができる特性を進化させてきたからである.その戦略の一つとして、種子の休眠がある。休眠期間の長さは同じ個体であっても種子それぞれで異なっており、種子発芽の不斉一性によって一度駆除されても年月を変えて発芽する。10年以上経ってから目覚める種もあると言う。

★可愛い雑草?

 憎いばかりではない、可愛い雑草も沢山ある。その一番は芝生に生えるネジバナ(ラン科)(写真6)、また、春先の芝生の片隅で鮮やかな青紫色の小さい花を咲かせるオオイヌノフグリ(オオバコ科)(写真7)もとても可愛い。

/写真5 ヌスビトハギの葉、花と種鞘  写真6 ネジバナ 写真7 オオイヌノフグリ


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