21.「全ては葉である」ゲーテ

/これはドイツの文豪ゲーテの言葉であるとのこと。蕚や花びらは言うまでもなく、雌しべや雄しべまですべての花の器官の原型は葉であることを示した。200年余りも前に、この文豪がどのようにしてこの結論に至ったか、極めて興味深い。

/「ゲーテ全集第14巻 潮出版社(木村・高橋他訳)形態学序説、p.103において、彼はこう述べる、「我々は芽を出す植物、花を咲かせる植物のさまざまな外見をとって現れる器官すべては、唯一の器官、すなわち、普通は各節ごとに生ずる葉から説明しようとした。種子を閉じ込める果実さえも、あえて葉の形態から導きだそうとした」と。タイトルの通り「全ては葉である」と同義である。

/図1 普通の花の構造:蕚、花びら、雄しべと雌しべの基本構

/ゲーテは同時代の植物分類学の創始者リンネ(1707―1778年)を尊敬し、植物学に強く魅かれた。彼は注意深い観察を通して、生物個体はそれが構成する基本的な形態の集合とその変化であり、その形態は共通した形、すなわち原型の変化、厳密な表現で、変態(メタモルフォーゼ)によるものと考えた。模式図1に示すように、普通の花は外側から順に蕚、花びら、雄しべ、そして中央に雌しべのように配置する。ゲーテの仮設に従えば、葉は⇒蕚⇒花びら⇒雄しべ⇒雌しべ⇒種へと変態する。その証拠は何か。葉からのそれぞれの変態過程で中間体や変異体あるいは奇形が存在する事実に基づいている。例えば、葉から蕚に完全に変化しないで、苞葉と言う形で、ポインセチアやブーゲンビリアのように花びらと紛うような色とりどりの葉が存在する。蕚から花びらへの変化を示す例は多く、ここで取り挙げるまでもないだろう。さらに、花びらから雄しべ、雌しべへの変態する中間体して、彼はアヤメやサフランの例を挙げている。図2のアヤメの花で示すように、3枚の蕚(外花弁)と3枚の内花弁の間に花弁の形態をした柱頭をもつ3枚の雌しべが見られる。普通、雌しべは、模式図1で示すように花の中央に1本だけ存在するが、進化的には遠い昔数枚の花びらが合体して1本になったと、彼は主張する。

/ 図2 アヤメの花の構造: 写真左は外花被と内花被及び花弁化した雌しべの花柱を示す。(写真右)雄しべは花弁化した雌しべ花柱と密標の間にある。 小杉波留夫氏の東アジア植物記より引用

/ゲーテに捧げられたゲーテローズという名称のバラがある。情熱的な濃いピンクのバラだ。ゲーテはバラの愛好家としても名高い。バラの花びらは基本5枚であるが、完全八重咲きのバラになると100枚にもなると言う。これらの沢山の花弁は雄しべが花びらに変化した結果で、実際に変態の様子が観察されるという。さらに、バラにおいて時々見られる花弁の葉化現象や貫生花の奇形がある。前者は花弁の一部が緑の葉に変化する現象で、いわば、緑の葉への先祖帰りである。後者は花弁が花芽に変化して花を貫くようにもう一つの花が咲くという奇形のバラである。この花を貫生花という(図3)。

/図3 バラ(グリーンアイス)の貫生花 花を貫通してもう一つの花が咲く。大島修氏のブログより引用

/以上、花の形態についてのゲーテの解釈を述べたが、彼の植物に関する博学な知識、観察眼と洞察力には驚きを禁じ得ない。形態学(生物の形と構造を記述・比較してその法則性を追究し,また形成過程を研究する)と言う学問分野の創始者の一人として抜きんでた存在であったことを改めて知らされた。

上述の事実から花のすべての器官は葉が変態した姿であることが納得できる。このことは近年の分子遺伝学に基づくABCモデルによって実証されている。このモデルについての話はまたの機会に譲る。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です