17.花びらの数はフィボナッチ数列に従うか?

/過日、あるテレビ番組(Humanience)で「花弁の数」は、”フィボナッチ数列”に従う、という説明があった。花びらの数はこの数列に従う、と言うのだ。フィボナッチはイタリアの数学者(1170-1259)で、この数列とは、1から始まって前の2つの小さい数を足し算する数列、すなわち、1, 1(=0+1), 2(=1+1), 3(=1+2), 5(=2+3), 8(=3+5), 13(5+8), 21(=8+513), 34(=13+21), 55(=21+34), ……のように大きくなる数の並びである。数学的には興味ある数列らしい。

これが真実かどうか、疑いが湧いたので、実証してみたくなった。牧野日本植物図鑑とみんなの花図鑑で花弁数が特定できた221種の花について下図のグラフ得た。キク科やバラ科の花びらの数は基本的に5枚であるが、種の数が多いのでバイアスが掛る恐れがあるために部分的にしかカウントしていない。また、単子葉のラン科及びイネ科、また裸子植物も含まれていない。

/図1 花びらの数と種 フィボナッチ数列の検証

/この図から次の事実が明らかである。①花びら数は5枚が圧倒的に多いこと、つまり、5枚が基本である。②フィボナッチ数列にない4または6枚の花弁をもつ種が多数存在すること。③花弁のない種が10種あること。花びらが4枚の花の代表はアブラナ科のダイコン花など32種、6枚の花はニワゼキショウ、コブシなど26種がある。②の結果は、花びらの数はフィボナッチ数列に従うと結論するには無理があることを示す。花弁の数がフィボナッチ数列に従うとの言説がネット上に溢れているが、少なくとも花弁の数については観測事実とは一致しない。

/最近、花の器官(額、花弁、雄蕊、雌蕊)の数は、数理モデルによって説明できることが、大阪大学の北沢と藤本によって示された(雑誌生物物理の総説(59(5)266-270(2019))に詳しい)。このモデルによると、花器官(縦えば、花)の発生初期段階に注目すると、花は、らせん葉序と同様に、その原基が1個ずつ発生する現象が観測されると言う。このとき、原基間で距離と共に指数的に減衰する反発的相互作用(抑制作用と言う)が働くこと、この作用は原基が古くなるにつれて減少すると仮定して数値計算した結果、花弁の数は広いパラメータ領域で4と5数性になることが示された。抑制作用の場が対称あると4が、非対称になると5が現れた、と言う。抑制場が広がると、6や7を飛ばして8が安定になると言う。詳しいことは筆者も理解できていないが、重要なことは、花器官の数として4や5が頻繁に見られる要因が、生物の進化的な適応的要因ではなく、発生過程そのものにあることである。

/とは言え、この単純な数理モデルではアヤメ科やラン科の3数性を説明できなかった。その理由として、恐らく発生原基の形や大きさが重要な因子であると考えられている。


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